尾鈴山を巡る

2005/6/10                                                       与作

 

    "ふるさとの尾鈴のやまのかなしさよ 秋もかすみのたなびきてをり”

 若山牧水が詠だ尾鈴山(1405m)は宮崎市から北に五十キロほど向かった所にある。

 梅雨入り前の好天を選び、朝7時40分から歩き始めた。山頂から尾根を南下し「白滝」
を経由するコースは7時間の行程だが、最後に有名な「矢研/ヤトギの滝」も見たかった。
 正面登山口までは舗装もある広い林道が続く。自分は約50年振りに登る懐かしい山だ。
この路は、昔は大きな原木を積んだ小さなトロッコが鉄道の駅まで何台も山をくだり、空に
なったトロッコを連結してオモチャみたいな機関車が再び山へと上がっていた。

 一時間程で林道から急登の続く山路に入る。椎や樫の照葉樹と樅の木等が続き、尾根を
約90分上ると木の根っこの祭壇がある尾鈴神社に着いた。その奥が一等三角点の山頂で、
周囲は木々に阻まれて眺望は出来ない。此処まで下りの二人連れに遭っただけで、下山す
る迄単独歩行となった。 子供の頃、この町に住む伯父に連れて来られた思い出があるが、
山頂の記憶は明瞭ではない。

  


 間食を済ませ次のポイントを目指して急坂を下る。  尾鈴山は都農町から見ると、円い
山頂の両サイドに少し低い円い頂が見える。その一つが長崎尾に当たり、50分で着いた。
 ところ所で断崖が西へ出て、牧水の故郷の山河が見える。 谷から甘い花の香りが漂よ
い、シャクナゲが散った尾根でむせるような花の恵みに驚いた。

            
” 尾鈴おね バイカウツギや 香り吹く ”

  

                    (梅花ウツギ/薩摩ウツギ)


 やがて尾根路は木城町と白滝方面への分岐に至る。駐車場まで降りるには三時間とある、
心せよと言われた気がした。午後一時前なので事故らない限り大丈夫と思い、急坂を下る。
 一時間程で「白滝展望処」に着いた。 滝の右岸上から見る位置にあり、落差75mの段状
の勇壮な山容は素晴らしいの一言だ。 更に急坂は続くが、滝の下路に出ると広いなだらか
な路となり転ぶ危険も減り安堵する。 ”さぎりの滝””すだれの滝”などが終わりジグザグ路
を4キロほどひたすら歩き通し、午後3時10分駐車場へ戻った。

白滝(目視距離1000m)

矢研ノ滝(目視距離300m)

 その足でもう一つの滝を見に向かう。 キャンプ場へ渡る橋に往時のトロッコのレールが
敷いてあり、わずかだが、懐かしいトロッコのきしむ音が内で響いた。
 矢研の滝(落差73m)は「日本の滝百選」にも名を連ね、水量も多く、垂直に堂々と落ちる
名瀑である。  青葉がなびくこの日の水音は印象深く、夏休みに遊んだ遠い昔が甦った。

 伯父、伯母は春の花見や秋の山川を一緒に連れ巡り、自分の手に持てないほどの風景
を遺してくれた。 尾鈴の山や河は今でも青春のカンバスなのだ。

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