おおくえやま

大 崩 山

2010/10/6                                                            崎田信義

 (宮崎市から車で約3時間) 国道10号〜延岡駅前から県道16,207号〜民宿に前泊
 大崩山 1644m、 小積ダキ 1391m

 登山口まで車(数台は駐車可)→大崩山荘→湧塚尾根→分岐→大崩山→
 分岐→小積ダキ→坊主尾根→急坂→祝子川渡渉→大崩山荘→登山口

 大崩山荘(無人) 民宿;大崩の茶屋(宿泊可)、渓流荘(宿泊可)
 登山口 7:10発(25分)大崩山荘(140)下湧塚(90)上湧塚・昼食20分(40)山頂(40)〜
      〜坊主尾根分岐(45)小積ダキ(110)林道分岐(40)川渡渉(30)登山口16:50着
 Σ9:40

 

花崗岩の塊り (わく塚尾根)

   大崩山は延岡市から北に20数キロの奥にあり、台風などの被害で度々入山禁止になった
 秘境だ。 百名山の選定者・深田久弥にも世間にも良くは知られていなかったので、大自然が
 残り、花崗岩の岩峰の眺望は別世界でもある。

  帰省の機会を活用、三年越しの登山にもなった。地理院の1/25000の地図や昭文社の図に
 も仔細ルートは記載されていない。前泊した民宿で貰った案内図にはポイントも記されており、
 大いに役立ち、怪我も迷い込みもなく周回ルートを単独で踏破できた。

  湧塚尾根では岩峰が連続してるがピークハントは敬遠、眺望を楽しんだ。下りの坊主尾根
 は梯子、鎖が連続するので、時間短縮の歩きとする。上湧塚の尖端に立つと七日廻りと言う
 巨岩をそこからのみ俯瞰できるとか、時間をかけて登るしかない。
  山頂付近の径は笹が背丈を越え、ようやく緊張感が緩む尾根だった。渓谷、岩壁、急坂や
 スラブ(滑らかな一枚岩)等など変化の激しい大きな山容だった。

 (
Note) この周回ルートは山と渓谷社の評価では、体力度、危険度共にレベル3(最高4)、
      北アルプス・槍ヶ岳と同じレベルで、事前のトレーニング、情報収集が必要です。

 

<祝子川>

 祝う子の川と書いて、ほうりがわと読める人は少なかろう。前泊する大崩茶屋の息子さ
んの話では、神話にあるホオリノミコトが由来で、ミコトが生まれた時に産湯として使った
川がこの地だと言われているそうだ。因みに兄ホデリノミコトが”海幸彦”と呼ばれる。

 西南の役で西郷軍は祝子川を通過した。明治10年、熊本田原坂の激戦に破れ、宮崎
方面へ転戦、延岡の官軍奪回にも失敗して敗走が始まる。 (日向長井駅の側に西郷
資料館がある) 山径に入り可愛岳で休んで祝子川から高千穂に進軍して官軍から米
俵を奪い、米良〜人吉〜小林〜吉松〜栗野〜鹿児島岩崎谷へ戻ったとの史実がある。

 祝子川ダムの上流には今も数十軒の民家と祝子川温泉があり、延岡市内からバスも
(3便/日)あるので、日帰り入浴もできる。 翌日の登山を控えて”美人の湯”に向かう、
露天風呂には金木犀の香りが漂よってきて優雅な気分に浸る。

 民宿では珍しいシカ肉(解凍ナマ)を初めて食した。臭みも筋もなく、淡白な珍味でお酒
がすすんだ。 冬に獲れた肉は淡白だそうで、脚に罠がかかるように仕掛け、一気に血を
抜くと上級品になり、銃で殺すと鮮度が落ちて等級が下がるそうだ。
 こんな山の恵み、川の恵みと共存しながら営みを続けている集落だ。百名山に入らなか
った事も幸いして大自然が保存できていると言う。

祝子川ダム (背景は大崩山塊)

 

<湧塚尾根>

 朝は6時過ぎになって明るくなる、民宿の主人から一枚の案内地図を貰い、丁寧な説明
を聞いてから出発する。登山口までは車で進めるので10分程上がる、昨日の下見時には
ウリ坊が前を横切った道でもある。

 既に3台ほど駐車していて後発となる。大崩山荘までは山すそを辿り、わく塚分岐から
祝子川に架かった金属製の橋を渡ると、対岸の大岩にいきなりロープが張ってある。森
の中の踏み跡やテープを頼りに進むと、巨石に出会う。半欠け状態のまま、斜めに鎮座
し10人はビバーク(野営)できそうだ。倒れないようにと枯木が立ててあり、笑いを誘う。

 大きく裂けた巨岩の間をくぐり、梯子を上り、ロープを手繰りながら、わく塚の岩峰群へと
進んだ。後から二人連れが追いつき、初めて人と会話する。
 やがて下湧塚に登るロープに取り付いた。岩の先から上に連続する湧塚尾根が一望で
きる。 丸みをおびた花崗岩の峰がニョキニョキと並び、人を寄せつけない光景には威厳
があり、自然の造形に目を見張った。

 先行した二人が岩径から戻ってきて不明瞭だと言う、ロープで元の径に戻って進む事に
した。中湧塚の尖端を避け、北側のスラブやガレ径を取る。眺望はイマイチだが、案内図
の指標では時間が半分だ。 上湧塚の下を回りこむと広い場所になり、ピークへ上がれる
様子だ、梯子を上がるが先の岩の隙間にはロープも何もなく、危険度も増すので断念して
昼食を摂る。 ここの尖端からはニョッキリと聳える”七日廻り岩”が俯瞰できるそうだ。

 

 

生のシカ肉を食す

大崩山荘

大岩を支える?

上湧塚ピークはエスケープ

 

<大崩山頂>

 山頂へ向かう径は岩や石ころとは違い、土も露出した径になる。 坊主尾根分岐を過ごす
と背丈を越える笹の路が続く。30分ほどで山頂に届いた。三角点は明治時代に設置された
のか、古色蒼然としている。(地理院の三角点のデータは祝子川山となっている)
 周囲の眺望はならず、笹の間に坊主尾根が少し見えるだけだ。 硬貨が数枚置いてあり、
ここへ着いた人の満ちたりた気持ちが分かる。

 民宿の話では、坊主尾根と湧塚尾根の周回は9時間くらいかかると言われた。既に半分
以上を費やしている。登山口への下山を推計すると4時過ぎになり、暗くなる前に下山する
には、のんびりもしておれず、10分ほどで引き返し坊主尾根分岐へ向かう。

   

大崩山頂

湧塚尾根、坊主尾根の分岐

湧塚尾根

小積ダキ

象岩の下をトラバース (斜面を横切る)

象岩のトラバース地点

 

 

米塚(坊主岩)

 

<坊主尾根>

 登ってきた湧塚への分岐点へ戻り坊主尾根へと進む。 暫く下るとりんどう丘からの分岐
と合流する。やがて大きく肩流れ状態の絶壁に至り、北には今朝登った湧塚尾根が展望で
きる。僅かな水が滲みこんだ岩盤の上には小さな花が見え、カメラに納める。

 快適に下ると小積ダキ(岩壁)の尖端へ届く、南側には象のダンボのような岩が見える。
真に自然の芸術品だ!ダキの先には梯子もロープもなく戸惑う、径が見当たらなくなった。
地図には少し戻るようになっていて、周囲を探して細い径が見つかった。スラブにロープ
が垂れていて坊主尾根に入った。

 象の岩の下はきわどいスラブでワイヤーロープを頼りにトラバースする、反対側の小積
ダキを眺望する余裕はない。この先からはロープ、梯子が連続して、大きな米塚(坊主岩)
が見えてくる。大きな岩が寄り添った所は数人がビバークできそうだ。
 丸い大岩の上にもロープ、直ぐに梯子で岩を下る。 まるで蟻が石の上を一歩一歩辿る
ような感じだ。十数か所の梯子、ロープを下って漸く平地へ届いた。

 林道への分岐点では、大崩山荘への近道と記された方向に急坂を進む、30分ほど下ると
渓流沿いの径になる。踏み跡が消えることもあるので、所々ケルン状に小石が重ねてある。
四時半を過ぎて、渓谷の中は薄暗い所もある。 やがて祝子川の渡渉地点へと出る、澄ん
だ流れと大小の岩が川を埋めている。対岸まで100mほど、標のケルンを頼り進み、大崩
山荘に着く。30分程で登山口の車へ戻ると、マイクロバスが団体の帰りを待っていた。

 好天にも恵まれ、一枚の案内図のお蔭で、初コースを無事に帰着した。 自然のままの
大きな山容は凄みがあり、とても全体を踏破できないが、また季節の彩りを楽しみたい。

 

大岩の下はビバーク可能

林道と大崩山荘への分岐

祝子川を渡渉

登山口

 

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