2004/10/15           洋上アルプス 宮之浦岳

                           <天上篇>               崎田信義

 春頃から予定していた宮之浦岳への登山は、度々の台風で日時を決め難い日が続いた。
21号が去り暫くは好天が続くと思い、10月14日からの予定を組んだ。 船や飛行機のキャン
セルが可能な一週間前、今年最大の台風23号が近づいてきたが、荒天なら霧島温泉巡りも
良しと思い屋久島に向かった。

<屋久島>
 霧島連山の西にある鹿児島空港に三人が集合した、晴天に恵まれ高台からの眺望も素晴
らしく幸運な出発を迎えた。鹿児島北港からトッピーと云う水中翼船に乗り、種子島を経由し
て安房港に着いた。 洋上から見る夕暮れの島の前岳は大半が曇に覆われ、奇岩が目立っ
た。 その晩は民宿にお世話になり、翌朝5時のタクシーで淀川登山口へ向かった。朝食、昼
食を途中の弁当屋で受け取り、同宿のSさんと相乗りで六時過ぎに1380メートルの登山口に
降り立った。 周囲は未だ薄暗く肌寒い、次々と山に登る人が到着する。 立派な木の階段に
向かい宮之浦岳への一歩を踏みだした。

<樹林帯>
 漸く朝の空気が流れてきた、鳥のさえずりも快い、ツガや樅山の大木の香りが清涼剤み
たいだ。大きな木の根っこが続き、苔むした倒木、樹皮が無くなった杉の枯存木等が原始
林にアクセントを付けている。 大台ヶ原下の大杉谷も木の根っこ径が続くが、山深くて空
も少ない屋久島の径は、深い原生林の中にあり幻想的な雰囲気を醸している。

淀川小屋付近の原生林

花之江河(湿原)


<湿原>
 登山路に所々木道が現われる、気象変化が激しい為か頑丈に作ってある。目の前に二匹
の猿がチョコンと座り当方に向いている、足を止めて観察するが動く気配はない。 しばし沈
黙が続く、一対ニでは不利なので目をそらす。やがて同行者が追い付くと猿は漸く腰を上げ、
木道を空けてくれた。 屋久猿は本州の猿より一回り小さいが優しい目をしていた。

 朝霧の彼方に大きい岩峰が見えてきた、頂上にある巨石はまるでタクワンを輪切りにした
かのように、スパッと裂けて載っている。なんとも超自然な風景に息をのんだ。 尾根径が下
りになり湿原に着いた。南の島の高い場所に苔むした湿地があるなど、雨が多く植生が豊か
な証だろう。 花之江河と云う湿原で日本最南端に位置している。借景にあの巨石を載せた
岩峰(高盤岳)を配し、杉の古木の枝が松に似て、自然が造った庭園は見ごたえがあった。

<岩峰>
 黒味岳への分かれを過ぎると巨大な円い花崗岩が点在した投石平に着いた。 百畳位の
平らな岩が数個あり、大岩の上で主人よろしく数人が休憩を取っている。我々もまた巨石を
眺めまわり水分を補給する。大岩が重なった自然の岩屋もあり、風雨の強い時には避難で
きるようだ。
 ここからは漸く宮之浦岳山頂が見え始め、更に進むと右手に巨石、奇岩を戴いた峰が続々
(安房岳、翁岳、栗生岳など)と現れた。 島全体がマグマが固化して出きている事が解かる。
ただの岩峰ではなく緑したたる山腹が巨石を祭り揚げるような景観で、他では見られない。島
では「岳参り」と言う行事があり地区毎に対象となる岩峰があるそうだ、ここに立てば昔の人
の想いが解かる気がした。

奇岩と翁岳

ウィルソン株


<山頂・
1936m ←Click Here>
 登山口から6時間以上を費やし漸く宮之浦岳に立った。360度の晴天、花崗岩の山頂、天
辺からの眺望、有名な屋久島の雨にも遭わず最高の恵みに三人とも感激した。 遠くには開
聞岳、近くには口永良部島が見え、西隣は緑のヴェルヴェットをまとったような永田岳がある。
 島の前岳には雲が垂れ込め、ここだけが天空に一番近かった。

「縄文杉」

「翁杉」


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